大阪地方裁判所 平成3年(ワ)10332号 判決 1994年10月21日
原告
富士汽船株式会社
右代表者代表取締役
稲田定雄
右訴訟代理人弁護士
金子武嗣
同
野仲厚治
同
中紀人
被告
国
右代表者法務大臣
前田勲男
右指定代理人
久保田浩史
外二三名
被告
福岡県
右代表者知事
奥田八二
右訴訟代理人弁護士
佐藤至
右訴訟復代理人弁護士
石橋英之
右指定代理人
中ノ森稠基
外一名
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一 請求
被告らは、原告に対し、連帯して金五六〇〇万円及びこれに対する昭和五八年一一月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
本件は、汽船第十八富士山丸の所有者である原告が、第十八富士山丸が朝鮮民主主義人民共和国(以下「北朝鮮」という。)によって抑留されたことに基づき生じた損害の賠償を、被告国及び被告福岡県に対し、国家賠償法一条に基づき請求した事案である。
一 前提事実
1 当事者
(一) 原告
原告は、海上貨物輸送を業とする株式会社であり、第十八富士山丸(総トン数234.07トン)の所有者である。
第十八富士山丸は、原告の従業員である紅粉勇船長(以下「紅粉船長」という。)、粟浦好雄機関長(以下「栗浦機関長」という。)他三名を乗組員とし、主として北朝鮮との海上貨物輸送に使用されていた(争いがない。)。
(二) 被告国
被告国は、日本人の海外渡航に関し、あっせん、保護その他必要な措置をとるため、外務省を設置し(外務省設置法五条八号参照)、本邦に入国出国するすべての人の出入国の公正な管理を図るため、法務省に地方入国管理局、支局、出張所を設置し(法務省設置法一二条一項、五項、三条三一号、出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)一条参照)、海上において、人命及び財産を保護し、法律違反を予防し、捜査し、鎮圧するため、運輸省の外局として海上保安庁を設置している(海上保安庁法一条一項参照)。
被告国は、右のとおりの機関を設置してわが国への出入国に関して公権力を行使し、その管理業務にあたっているものであり、福岡県の門司港には、福岡入国管理局門司港出張所(以下「入管門司港出張所」という。)、第七管区海上保安本部門司海上保安部(以下「門司海上保安部」という。)が置かれている(原告と被告国との間において争いがない。)。
(三) 被告福岡県
被告福岡県は、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当たるため(警察法二条参照)、その機関として警察を設置し、水上警察において、その公権力の行使として、福岡県の港湾、海上において右職務を行わせている(原告と被告福岡県との間において争いがない。)。
2 第十八富士山丸の北朝鮮抑留
(一) 昭和五八年一一月三日(以下、年月日について、断りなき限り、いずれも昭和五八年である。)、第十八富士山丸が北朝鮮の南浦港から四日市港に向けて航行中、第十八富士山丸の機関室内に潜伏していた密航者(後に、本名を閔洪九(ミン・ホング)という北朝鮮軍人であることが判明した。以下「閔」という。)が乗組員によって発見された(甲二、五、一一、乙六、七、九、一〇、証人紅粉)。
(二) 第十八富士山丸は、日本での荷揚げを終え、同月一一日正午ころ、再び北朝鮮へ向け、門司港を出港した(以下「本件出港」という。)が、南浦港到着後、北朝鮮当局に拘束され、乗組員は抑留されるに至った(以下「本件抑留」という。)(争いがない)。
(三) その後、昭和五九年二月七日、紅粉船長、粟浦機関長を除く第十八富士山丸の乗組員であった、前田一等航海士、永山一等機関士、佐藤司厨長の三名が日本に送還され、また、紅粉船長と栗浦機関長については、平成二年一〇月一一日に至り帰国が実現した(争いがない)。
(四) 第十八富士山丸の船体は、現在も返還されていない(弁論の全趣旨)。
二 当事者の主張
1 原告の主張
(一) 本件出港の要因
入管法は、入国船舶の運送業者に入国審査についての協力義務を定め(同法五六条)、入国船舶とその船長に、有効な旅券等を所持しない外国人について、自らの責任と費用で送還すべき義務を定めている(同法五九条一項)ところ、紅粉船長は、入管門司港出張所所長前橋盛之(以下「前橋所長」という。)の強い要請により、一一月四日、密航者を第十八富士山丸で乗船送還する旨の誓約書(以下「本件誓約書」という。)を提出した。
同月一〇日、前橋所長は、紅粉船長に対し、「取調べ中である。」として閔の送還不能を明らかにしたが、第十八富士山丸は、すでに本件出港の準備を整えており、翌一一日、閔を乗船させることなく本件出港を行ったので、本件出港の決定的要因を作ったのは前橋所長であった。
(二) 本件抑留の危険性と被告らの認識
(1) 北朝鮮との外交関係
日本政府は、昭和二〇年の北朝鮮の成立後、一貫して敵視、敵対政策をとり続け、現在に至るまで正式な国交は樹立されていない。
(2) 北朝鮮による日本漁船等の拿捕事件など
昭和五〇年のふぐはえなわ漁船松生丸に対する北朝鮮による銃撃、拿捕事件、昭和五五年の貨物船第5七福丸の北朝鮮による拿捕事件など、昭和四七年から第十八富士山丸が抑留された同五八年までの一一年間における北朝鮮による日本船舶の銃撃、拿捕事件は二二件にものぼっている。
(3) ラングーン事件とその制裁措置
昭和五八年一〇月九日、ビルマ(現在のミャンマー)の首都ラングーンの国立共同墓地で爆弾が爆発し、韓国の閣僚を含む多数の死傷者が出た、いわゆるラングーン事件に際し、同年一一月七日、日本政府は、日本の外交官の北朝鮮職員との接触停止などの対北朝鮮制裁措置を発動させたが、このような情勢の中、同月九日、アメリカ合衆国レーガン大統領が訪日し、太平洋地域の重要性を表明し、同月一二日には韓国のソウルを訪れ、韓米連合軍の武力増強問題と北朝鮮制裁問題を協議するなど、北朝鮮をめぐる情勢は極めて緊迫していた。
(4) 本件抑留の危険性
以上のとおり、日本政府の北朝鮮に対する一貫した敵視政策の下で、北朝鮮による日本漁船等に対する銃撃、拿捕事件が繰り返され、しかも、そのほとんどが理由なき「スパイ行為」を口実とするものであったところ、第十八富士山丸は、まさにレーガン大統領訪日中の一一月一一日、北朝鮮に向けて出港し、同大統領の訪韓直後、北朝鮮によって抑留されたものであり、かつ、閔が北朝鮮の政治体制を批判して軍隊を脱走した軍人であることを考えれば、第十八富士山丸が北朝鮮により抑留される危険性は極めて高かったものといわねばならない。
(5) 被告らの認識
前項のとおり、外交政策上、日本と北朝鮮との緊張関係を高めたのは、外務省であるところ、閔は、一一月六日ころ、取調べ時に、北朝鮮の政治体制を批判し、制裁をおそれて軍隊を脱走してきた軍人であることを供述しており、また、同月一〇日、入管門司港出張所職員、門司水上警察署員は、第十八富士山丸から閔の軍服と軍靴を押収し、閔が北朝鮮の軍人であるとの供述を裏付ける有力な証拠を取得していた。
したがって、本件出港当時、外務省、入管門司港出張所、門司海上保安部及び門司水上警察署の各機関は、第十八富士山丸が北朝鮮に行くと、抑留される危険性を十分に認識していたといえる。
(三) 被告らの責任(その一――伝達義務違反)
(1) 外務省、入管門司港出張所、門司海上保安部、門司水上警察署の各機関は、相互に連絡体制をつくり、出入国管理、犯罪予防、捜査等について相互に協力し、共同して職務を遂行すべきことを要求されている(入管法六一条の八、海上保安庁法二七条)が、外交関係その他北朝鮮との複雑な状況を判断し、適切な措置をとることは、一介の民間人にすぎない原告や紅粉船長外第十八富士山丸の乗組員には到底できることではないのであるから、本件出港の要因を作り、かつ、本件抑留の危険性を認識していた右各機関の職員は、密航者が軍人であるという事実を乗組員に伝えるべき法的義務があるといわなければならない。紅粉船長らは、右事実を知らないまま本件出港を行ったのであり、密航者が軍人であるという、いわば本件出港が危険であることを判断するための決定的情報を知らされていれば、紅粉船長らが本件出港を中止したことは明白である。
(2) しかるに、これら職員、具体的には、前橋所長、門司海上保安部職員、原薫門司水上警察署課長(以下「原課長」という。)らは、この重要な事実を知りながら、紅粉船長をはじめとする乗組員に対し、一切これを伝えず右義務に違反した。
(3) 右義務の履行は、実際上困難を伴うということも全くなく、本件出港まで少なくとも二日間という時間的余裕があったばかりか、実際に紅粉船長をはじめとする乗組員にも接触しているのだから、右事実を伝えることは極めて簡単かつ容易なことであり、これを行わなかった右職員らの行為は、むしろ故意に近い過失と見做しうるものである。
(4) よって、被告国は、前橋所長及び門司海上保安部職員の右作為義務違反につき、被告福岡県は、原課長の同義務違反につき、それぞれ国家賠償法一条に基づき、原告に対する損害賠償責任がある。
(四) 被告らの責任(その二――防止義務違反)
(1) 外務省、入管門司港出張所、門司海上保安部及び門司水上警察署の各機関は、いずれも門司港における出入国の際、わが国の国民の生命身体財産を保護するため、共同して職務を遂行している(入管法六一条の八、海上保安庁法二七条)ところ、その職務遂行のため、海上保安官は、船舶の進行を停止させ、又はその出発を差し止め、航路を変更させ、又は指定する港に回航させることができ(海上保安庁法一八条一号、二号)、警察官は、人の生命若しくは身体に危険を及ぼし、又は財産に重大な損害を及ぼすおそれのある危険な事態がある場合においては、関係者に対し、その危険防止のため、必要な警告を発し、及び特に急を要する場合においては、危害を受けるおそれのある者に対し、その場合の危害を避けしめるため必要な限度でこれを引き留め避難させ、通常必要と認められる措置をとることを命じ、又は自らその措置をとることができる(警察官職務執行法四条一項)。
(2) この点、外交関係その他北朝鮮との複雑な状況を判断し、適切な措置をとることは、一介の民間人にすぎない原告や紅粉船長外第十八富士山丸の乗組員には到底できることではないのであるから、本件出港の要因を作り、かつ、本件抑留の危険性を認識していた右各機関の職員は、右各法律に基づき、門司海上保安部海上保安官及び門司水上警察署員において本件出港を差し止めるべきであり、外務省職員及び入管門司港出張所職員は、右機関に右措置をとるように要請すべきであった。
特に、本件出港の原因を現実に作出した前橋所長は、法律上の根拠を待つまでもなく当然に本件出港を差し止めるべき義務を負い、入管法六一条の八、海上保安庁法二七条に基づいて、門司海上保安部あるいは門司水上警察署に要請することにより、本件出港を差し止めるべきであった。
(3) しかるに、右各機関は、右義務を怠り、本件出港に際し、何らの措置もとらなかった。
(4) よって、被告国は、外務省職員、入管門司港出張所職員及び門司海上保安部職員の右作為義務違反につき、被告福岡県は、門司水上警察署員の同義務違反につき、それぞれ国家賠償法一条に基づき、原告に対する損害賠償責任がある。
(五) 被告国の責任(その三――救済義務違反)
(1) 外務省は、海外における邦人の生命、身体及び財産の保護を責務とし(外務省設置法四条九号)、そのため海外における邦人の生命、身体、財産を保護するため、外国官憲と交渉すべき権限がある(同法五条七号)ところ、第十八富士山丸は、入管門司港出張所、門司海上保安部などの被告国の機関に協力しながら、危険な状況のもとで北朝鮮へ向かい、抑留されてしまったのであるから、この場合、外務省職員は、国交の有無にかかわらず、第十八富士山丸の返還とその乗組員の釈放のため、最大限北朝鮮と交渉し救済すべき義務があるというべきである。
(2) しかるに、外務省は、北朝鮮と何らの実質的交渉をしないばかりか、かえって昭和六二年二月の北朝鮮からの亡命にかかるズ・ダン号事件の処理や、退去強制命令が確定した閔に対する同年一一月二日の仮放免決定、さらにはバーレーンにおける大韓航空機爆破事件に端を発する昭和六三年一月二四日の北朝鮮制裁措置など、北朝鮮敵視政策を強化し続け、紅粉船長及び栗浦機関長の帰国を困難にさせ、第十八富士山丸の返還を不可能にした。
(3) よって、被告国は、外務省職員の右作為義務違反について、国家賠償法一条に基づき、原告に対する損害賠償責任がある。
2 被告国の主張
(一) 伝達義務違反について
(1) 原告は、その主張にかかる伝達義務の具体的根拠を示していない。原告の挙げる入管法六一条の八、海上保安庁法二七条は、関係行政機関に対し、必要な協力を求めるなどの連絡調整に関する規定にすぎず、法的義務の具体的根拠規定とはなり得ない。
(2) 右の点を措くとしても、一一月一〇日、福岡入国管理局警備官は、第十八富士山丸船内の捜索を行い、閔の軍服、軍靴などを差し押さえているが、その際、紅粉船長は、右捜索差押に立ち会っており、紅粉船長は、遅くとも、本件出港の前日である一一月一〇日の右捜索差押の際には、閔が軍人であること、または、その蓋然性が高いことを了知していた。
したがって、被告国の公務員としては、第十八富士山丸の乗組員に対し、閔が軍人であり得る旨をことさら告げる必要性はなかったのであり、右事実を伝達しなかったことについて、被告国の公務員に職務上の義務違反は生じ得ないし、また、伝達しなかったことと本件出港との間に因果関係も存在しないというべきである。
(二) 防止義務違反について
(1) 原告が、外務省職員及び入管門司港出張所職員について、その主張にかかる権限根拠規定を示していないことは、前項(1)のとおりである。
(2) 原告は、本件出港が前橋所長の要請によるものであるとの前提で、これを作為義務発生の根拠として主張する。
しかしながら、第十八富士山丸には、前橋所長が本件誓約書の提出を要請した一一月四日当時、すでに次回南浦港向けの出港予定があったのであり、本件誓約書は、前橋所長が右日程に合わせて閔を送還するように要請したことに基づき、作成、提出されたものである。
また、紅粉船長は、遅くとも一一月一〇日の捜索差押の際には、閔が軍人であること、または、その蓋然性が高いことを了知し、かつ、同日、前橋所長から退去強制手続未了のため閔を送還することができなくなったことを聞かされ、北朝鮮官憲による取調べを受けるのではないかと心配し、翌一一日、在日朝鮮人総連合会(以下「朝鮮総連」という。)から、「紅粉船長は故意に密航者閔洪九を乗船させたのではない。」旨の報告書を入手して本件出港を行っている。
したがって、紅粉船長は、自己の責任と判断で本件出港を決意したというほかなく、原告の主張には理由がない。
(3) 門司海上保安部職員について、原告は、海上保安庁法一八条一号、二号の規定を挙げるが、海上保安庁が、「海上において、人命及び財産を保護し、並びに法律の違反を予防し、捜査し、及び鎮圧するため」に置かれていること(同法一条一項)及びその所掌事務(同法五条)に照らすと、右同法一八条一号、二号の権限が本件のように外国で抑留される危険を防止する目的で行使されるべきものと解することはできない。
仮に、右権限が右のような目的で行使し得るものであるとしても、同条は「四囲の情況から真にやむを得ない」ことをその権限行使の要件としているから、明白かつ切迫した危険が予見される場合に限って、右権限の行使が許されるものと解すべきであるところ、本件においては、本件出港によって何らかの漠然とした抽象的な危険の発生が予想されなくはなかったとしても、明白かつ切迫した危険を予見することができたとは到底いえないから、右権限行使の要件は充足されていなかったといわざるを得ず、したがって、かかる権限の行使は、原告の主張するような義務化を論じるまでもなく、許されなかったというべきである。
(三) 救済義務違反について
(1) 原告は、外務省職員の救済義務について、行政上の組織規範を示すにすぎず、その権限根拠規定、右権限行使の法律要件及び右要件の充足性を明らかにせず、外務省職員がどのような救済措置を採れば本件について救済可能であったかの点についても触れていないから、結局、被告国の責任原因を全く特定していないことに帰し、原告の主張は失当である。
(2) なお、日本国は、北朝鮮を国家として承認しておらず、日本国と北朝鮮との間には外交関係がないため、外務省がとり得る手段は自ずから限られるが、そのような情況の中でも、関係省庁は、第三国への仲介依頼、国会議員を通じた交渉、赤十字社を通じた交渉等最大限の努力を行っていた。
3 被告福岡県の主張
(一) 伝達義務違反について
(1) 原告の主張する伝達義務なる法的義務が、いかなる根拠に基づくものかは全く不明であり、右義務を規定する法律が存在しないことは明らかである。
また、原告が挙げている入管法六一条の八、海上保安庁法二七条は、行政機関相互の単なる努力規定にすぎないのであって、これらの規定から、伝達義務なる法的義務が導き出し得ないことも明らかである。
(2) さらに、紅粉船長は、軍服、軍靴の押収にも立ち会っていたのであって、密航者が軍人であることを十分認識していたのであるから、右義務は認められない。
(二) 防止義務違反について
(1) 警察官職務執行法四条一項は、警察官が天災その他国民の生命、身体、財産に危険が及ぶおそれのある場合に、そのような危険から国民を守ることは当然の責務であるとの考えから、いわゆる警察責任の原則(警察権による命令又は強制は、警察違反の状態の発生について責任を負うべき者に対してのみ行われるべきであるという原則。)の例外として、警察責任を負わない者に対しても警察権による命令又は強制をなしうる旨定めたものであるが、他方、本条は、危険の存在を口実とする警察権の濫用を防止するため、第一に、警察官が本条に定める行為をなしうるのは「危険な事態がある場合」であると規定し、危険の存在は、単なる抽象的な危険の存在ではなく、現実に危険の迫った場合に限定されるとし、第二に、警察官が単なる警告に止まらず、即時強制の手段をとりうるのは「特に急を要する場合」であると規定して、現実の危険が一段と切迫し、警察官の警告によっては間に合わないような事態でなければ即時強制の手段をとりえない旨規定している。
(2) 原告は、当時の北朝鮮をめぐる政治情勢や同国による日本人拿捕事件などをもとに、第十八富士山丸が北朝鮮の軍人の密航者を乗せていた以上、北朝鮮による抑留の危険があり、当然、警察においてもその危険性を認識し得たと主張するが、北朝鮮が何らの理由もなく日本人を拿捕するという前提がない限り、密航の手引きをしたわけでもない第十八富士山丸の乗組員が、何らの理由もなく北朝鮮に抑留されることを予想することはできないのであり、結局、本件出港に伴う危険性は、当時、抽象的な可能性としては考えられていたものの、現実の危険として具体化したものでもなければ、さらに切迫したものでもなかったというべきであり、本条の要件を充たさない。
三 争点
1 伝達義務違反の存否
2 防止義務違反の存否
3 救済義務違反の存否
第三 争点に対する判断
一 前記前提事実2(一)と争いがない事実に証拠(甲一ないし七、一一、二四、乙一ないし三、四の1、2、五ないし一〇、丙三、証人紅粉、同前橋、同原)、弁論の全趣旨を総合すれば、本件出港までの事実経過について、以下の事実が認められる。
1 密航者の発見
(一) 一一月一日、第十八富士山丸は、紅粉船長、杉山一等航海士、栗浦機関長、永山一等機関士及び佐藤司厨長の五名を乗組員として、積載した蛤約一〇〇トンを、四日市港に陸揚げするため、北朝鮮の南浦港を四日市港に向けて出港した。
(二) 長崎県下県郡厳原町所在豆酸埼灯台の南西約一三マイルの公海上を航行中の一一月三日午後七時四〇分ころ、栗浦機関長が第十八富士山丸の機関室内に潜伏していた閔を発見した。
2 密航者発見後の措置
(一) 密航者発見の報告を受けた紅粉船長は、同日年後九時ころ、門司海上保安部下関海上保安署に対し、船舶電話で密航者乗船の事実を通報した。
(二) 右通報を受けた門司海上保安部は、同日午後九時二〇分ころ、第十八富士山丸に電話をかけ、翌四日午前六時に六連検疫錨地で落ち合う旨の協議を整えた。
(三) その後、同日三日中に、前橋所長の自宅に門司海上保安部職員から電話があり、密航者乗船の事実、右協議の内容などの連絡がなされ、前橋所長は福岡入国管理局に電話をし、当直員に対し、右事実を報告した。
(四) 右協議に従い、同月四日、第十八富士山丸は六連検疫錨地に到着し、午前七時三〇分ころから同八時三〇分ころにかけて、紅粉船長と門司海上保安部職員が会談し、事情説明及び今後の方策についての協議を行った。
(五) 門司海上保安部職員は、同日午前八時ころ、第十八富士山丸船内において、閔を入管法三条一項違反(不法入国)の容疑で緊急逮捕し、同船を門司港に回航させた。
(六) 同日午前一〇時一〇分ころ、第十八富士山丸は門司港に入港し(以下「第一回入港」という。)、門司海上保安部は、紅粉船長と栗浦機関長の事情聴取を行った。
(七) 右入港前の同日午前九時四〇分ころ、前橋所長は、福岡入国管理局に対し、閔が発見された日時やその時の第十八富士山丸の位置など、その時点までに判明していた事実の報告を行った。
(八) 右入港後の同日午前一〇時四〇分ころ、入管門司港出張所職員から門司水上警察署に電話があり、第十八富士山丸が密航者を乗せて門司港に入港した経緯などの連絡がなされた。
(九) 前橋所長は、同日、福岡入国管理局から、入管法五九条一項に基づき、密航者の閔告を第十八富士山丸で送還させるので、紅粉船長からその旨の誓約書の提出を受けるよう、指示された。そこで、前橋所長は、門司港に停泊中の第十八富士山丸に赴き、紅粉船長に対し、入管法五九条一項の送還義務について説明し、送還義務の履行を要請したところ、紅粉船長は、本件誓約書を作成し、前橋所長に提出した。
3 第二回入港までの経緯
(一) 第十八富士山丸は、同日四日午後六時ころ、門司港を出港し、同月七日午前八時ころ、四日市港に到着後、揚げ荷をし、南浦港向け航海の準備を整え、同月八日、門司港に向けて四日市港を出港し、同月一〇日午前九時ころ、再度門司港に入港し、門司港湾合同庁舎前に停泊した(以下「第二回入港」という。)。
(二) その間、同月五日には、北朝鮮から日本に第十八富士山丸に乗船して密航してきた男が逮捕された旨の新聞報道がなされた。
4 閔の身柄及び取調べ状況
(一) 門司海上保安部は、第一回入港後、直ちに閔を上陸させてその身柄を引致し、福岡地方裁判所小倉支部裁判官から緊急逮捕に伴う逮捕状を得て取調べを行った後、同月四日午後九時三〇分ころ、入管法六五条一項に基づき、その身柄を福岡入国管理局入国警備官に引き渡した。
(二) 閔は、栗浦機関長に発見された後、紅粉船長に対し、名前を「リーヤンナム」(季英男)と名乗り、病気の母親の治療薬の入手のために密航したなどと述べ、同月五日の入国警備官による取調べまでは右のとおりの供述をしていたが、翌六日に行われた入国審査官の違反審査においては、本名が閔洪九であり、軍人であり、軍を脱走してきたことを、さらに、翌七日には、軍服等を第十八富士山丸の機関室に隠したことを明らかにした。
5 捜索差押え及び送還不能の告知
(一) 福岡入国管理局では、閔の右供述に基づき、第十八富士山丸の船内において、閔の軍服等を捜索差押えするため、同月九日、福岡地方裁判所裁判官の捜索差押許可状を得た。
(二) 前橋所長は、同日、福岡入国管理局から、閔の右供述内容、翌一〇日に第十八富士山丸の船内で閔の軍服等の捜索を行うため入国警備官を派遣するので同行、案内すること、密航者の送還ができなくなったことの連絡を受け、同日夕方ころ、門司水上警察署に対し、閔が軍人であり、翌一〇日にその軍服等の捜索を行うので警備を行って欲しい旨電話連絡をした。
(三) 翌一〇日、第二回入港時である午前九時ころ、前橋所長外三名の入管門司港出張所職員の同行の下、門司水上警察署員の警備を得て、福岡入国管理局入国警備官藤井博幸による捜索差押えが行われ、機関室内から閔の軍服上衣、軍服ズボン、軍靴等が発見され、押収された。
(四) その際、前橋所長は、紅粉船長に対し、密航者は取調べ中であるから、同人を第十八富士山丸で送還することはできない旨を告げた。
6 本件出港までの経緯
(一) 紅粉船長に対しては、同月九日ころ、朝鮮総連から、事情を聞きたいとの依頼があったところ、同月一一日午前九時ころ、朝鮮総連中央社会局部長キムヨンジン、同福岡県本部副委員長リウンヒらが第十八富士山丸を訪れ、密航の状況等につき紅粉船長から事情を聴取した。
その際、紅粉船長が、北朝鮮官憲から密航を幇助したと疑われることを心配し、キムらに対し、密航幇助の事実がないことの証明書を書いて欲しい旨頼んだところ、キムらは、証明書までは書けないとしながらも、故意に密航者を乗船させたのではないとの紅粉船長の主張を要約した報告書(以下「朝鮮総連作成の報告書」という。)を作成し、紅粉船長に交付した。
同日、右報告書のコピーが、紅粉船長から門司海上保安部及び門司水上警察署に交付された。
(二) 同月正午ころ、第十八富士山丸は、本件出港を行った。
二 争点1(伝達義務違反の存否)について
1 原告主張の伝達義務の法的根拠が明らかにされているといえるかとの問題がないわけではない。
2 右の点をさて措くとしても、本件事実関係の下では、伝達義務違反があったと認めることはできない。
(一) 密航者が軍人であった場合と、民間人であった場合を比較すれば、本件出港後、北朝鮮当局によって、第十八富士山丸及びその乗組員が不利益を受ける可能性、程度は、一般的には密航者が軍人であった場合のほうが高かったと考えられるから、本件において、閔が軍人であったという情報は、本件出港を行うか否かの判断において重要な判断材料の一つであったと認めることができ、前記第三の一の5の(二)で認定したところによれば、前橋所長は、福岡入国管理局からの連絡により、門司水上警察署の原課長は、前橋所長からの警備要請により、遅くとも閔の軍服等の捜索差押えがなされた日の前日である一一月九日には右事実を知っていたものと認められる。
(二) しかしながら、閔の軍服等の捜索差押えに関して福岡地方裁判所裁判官が発した捜索差押許可状(乙一)には、「差し押さえるべき物」として、「軍服、軍靴等(被疑者の所持していた物)」との記載があること、右捜索差押えの結果を記した捜索調書(乙二)及び押収調書(乙三)には、捜索の目的が軍服上下及び軍靴であり、捜索の結果、第十八富士山丸の機関室内から軍服上衣、軍服ズボン、軍靴等が発見され、これらを押収したことが明記されているところ、右各調書の立会人欄には、いずれも紅粉船長が第十八富士山丸船長あるいは第十八富士山丸と記載した上で、署名し、押印していること、乙五(右捜索差押えを執行した福岡入国管理局入国警備官藤井博幸(以下「藤井」という。)の同局局長山口章に対する一一月一〇日付け報告書)及び証人前橋の証言によれば、一一月一〇日、藤井は、第十八富士山丸に赴き、紅粉船長に対して捜索差押許可状(乙一)を示して船内の捜索を行う旨を告げ、栗浦機関長の案内により機関室に行き、閔の軍服等を発見した後、これを同船内のサロンルームにおいて紅粉船長に示したが、その際、軍服上衣については両手で広げて示し、軍靴については手で持ち上げて示したこと、前橋所長は、一見して、衣服が軍服だとわかったこと、その際、警備のため第十八富士山丸に乗船していた水上警察署員が軍服を見て、軍服ではないかと述べたところ、紅粉船長の表情に変化が生じたように見受けられたこと、このように認められるのであり、以上よりすれば、紅粉船長は、右捜索差押えの際、押収品が軍服、軍靴等であることを知り、閔が軍人であることを了知したものと推認できる。
これに反し、本件出港当時閔が軍人であることは知らず、右事実を知ったのは北朝鮮に抑留された後であって、閔で軍人であることを知っていれば、本件出港を行うことはなかったとする紅粉船長の供述は、右各証拠に照らし措信し難い。
紅粉船長は、さらに、捜索差押許可状(乙一)を示されたことはなく、捜索調書(乙二)及び押収調書(乙三)の署名押印は、不動文字を除き白紙の状態で署名押印したものであるとも供述するが、藤井らにおいて、あえて、軍服等が発見されたこと、閔が軍人であることなどを秘匿する必要性があったと認めるに足りる証拠はないことに加え、紅粉船長が白紙に署名押印したと述べるに至った供述経過(紅粉船長は、当初、捜索差押えの際に調書の類に署名押印したことはないと供述していたところ、白紙に署名押印したとの右供述は、その後、乙二、三の各書証を示された後になされたものである。)に照らせば、右供述も採用できない。
(三) 原告主張の伝達義務違反が認められるためには、少なくとも、閔が軍人であると告げるべき必要性があったといえることが必要であるところ、以上のとおり、紅粉船長は、本件出港当時、すでに、出港の判断の前提となる右事実を認識していたと認められるのであるから、仮に前橋所長、門司海上保安部職員及び原課長が右事実を告げていなかったとしても、右不作為に違法性は認められない。
三 争点2(防止義務違反の成否)について
1 まず、原告の被告国に対する主張のうち、外務省職員、入管門司港出張所職員に関する防止義務違反の権限根拠が明確に主張されているといえるか、疑問がないわけではない。
また、門司海上保安部職員について、原告主張の海上保安庁法一八条本文及び一号、二号の規定が本件のような場合にまで適用されるといえるのかは検討の余地があるところではある。
2 右の点をさて措くとしても、以下に述べるとおり、被告国及び被告福岡県のいずれについても、防止義務違反を認めることはできないといわざるをえない。
(一) 本件出港の要因について
(1)イ 前記第三の一の2の(九)のとおり、一一月四日、紅粉船長は、前橋所長に対して本件誓約書を提出しているが、証人前橋の証言によれば、前橋所長は同日第一回入港前に六連検疫錨地に赴いたことはなく、前橋所長が入管法五九条一項の送還義務を説明し、紅粉船長から本件誓約書の提出を受けたのは、第一回入港後の同日午前一〇時一〇分以後であること、第十八富士山丸には、前橋所長が右送還義務を説明し、本件誓約書の提出を受ける前から、再度南浦港向け航海の予定があったのであり、本件誓約書は、第十八富士山丸の右航海予定を確認した上で、右日程に合わせて閔を乗船送還するように要請したことに基づき、作成、交付されたものであることが認められる。
ロ この点、紅粉船長は、六連検疫錨地には門司海上保安部職員数名と前橋所長が来ており、本件誓約書は、同日午前七時半から八時ころの間に六連検疫錨地において前橋所長に提出したものであること、右要請を受けた際には、次回航海の予定はなく、本件誓約書を差し入れたことにより、再び北朝鮮に向かわざるを得なくなったことを趣旨とする供述をする。
ハ しかしながら、前記第三の一の2の(七)のとおり、一一月四日午前九時四〇分ころ、前橋所長は、福岡入国管理局に対し、その時点で判明していた事実の報告を行っているが、仮にそれ以前に本件誓約書が作成、提出されていれば、その事柄の性質上、右事実も報告されていると考えられるところ、その電話記録書(甲二)には本件誓約書に関する記載がないこと、乙一一、証人前橋の証言及び弁論の全趣旨によれば、六連検疫錨地は入管門司港出張所の管轄区域外であること、入管門司港出張所の所長である前橋所長が、一人で、しかも、異なる行政機関である門司海上保安部の巡視艇に乗るというのは不自然であること、これらの事情に照らせば、六連検疫錨地において本件誓約書を作成、提出したとする紅粉船長の供述は採用できない。
ニ また、その記載内容から、一一月四日午前七時二〇分ころ、六連検疫錨地で門司海上保安部職員が第十八富士山丸に臨船し、その立ち入り検査の結果を記したものである日本船舶立入検査記録(乙八)には、第十八富士山丸は、一一月八日に南浦港に向けて四日市港を出港する予定である旨の記載があり、前記電話記録書(甲二)にも同趣旨の記載があることに加え、本件誓約書の内容は「一一月九日頃四日市港を出港し、南浦向往航の当時門司港に寄港し同人(密航者)を乗船送還したい」という次回出港日を特定したものとなっているところ、証人紅粉は、原告の意向を確かめることなく、自分の考えだけで航海を行うか否かを決定することはできないと述べる一方、本件誓約書については、原告に事前に相談することなく本件誓約書を作成したことを認めているのであり、以上からすれば、第十八富士山丸は本件誓約書の作成には関係なく、本件誓約書作成当時、既に南浦港への航海の予定があったと推認でき、これに反する紅粉船長の前記供述は信用できない。
(2) 右の経緯で本件誓約書を差し入れた後、第十八富士山丸は、次回南浦港向け航海の準備を整え、閔を乗船させるため第二回入港をしたが(前記第三の一の3の(一))、右入港後直ちに閔の軍服等の捜索差押えがなされ、その際、紅粉船長は、閔が軍人であることを了知し(前記第三の二の2の(二))、他方、前橋所長から閔を送還できない旨告げられている(前記第三の一の5の(三)、(四))。
そして、北朝鮮官憲から密航を幇助したと疑われることを心配したが、本件出港当日の午前九時ころ、朝鮮総連作成の報告書の交付を受け、同日正午ころ、本件出港を行った(前記第三の一の6)。
(3) このように、第十八富士山丸は、前橋所長が紅粉船長に入管法五九条一項の送還義務を説明する前から南浦港向け航海の予定があったのであり、紅粉船長は、閔が軍人であることを了知し、かつ、閔の送還不能を告げられ、北朝鮮に渡航することに不安を感じつつも、これを中止することなく、朝鮮総連作成の報告書を携えて本件出港を行ったのであるから、紅粉船長は、自らの判断で本件出港を行ったものというべきであり、前橋所長の送還要請が本件出港の主たる要因であったということはできない。
(二) 本件抑留の危険性と被告らの認識
(1) 本件においては、前記前提事実2(三)のとおり、極めて重大かつ不幸な結果が発生したが、本件出港当時、外務省、入管門司港出張所、門司海上保安部、門司水上警察署の各機関において、右のような結果の発生を予見することができたと認めるに足りる証拠はない。
(2) 確かに、原告が主張するような当時の政治情勢、閔が軍人であったこと、抑留された紅粉船長自身、本件出港にあたり、北朝鮮官憲から密航を幇助したと疑われることを心配していたこと(前記第三の一の6の(一))に照らせば、被告らの右各機関において、本件出港後、第十八富士山丸とその乗組員に対し、あるいは北朝鮮当局より何らかの不利益が課されるおそれがありうるかも知れないという程度のことは認識し得たと考えられるが、右事実から、具体的に、本件のような重大な結果が発生することまで予見しえたということはできない。
(三) 以上のとおり、本件出港は、紅粉船長自らの判断によるものであって、前橋所長の送還要請が本件出港の主たる要因であったということはできないこと、本件出港当時、第十八富士山丸が北朝鮮に渡航することによる結果として、被告ら機関が予見しえたと認められるのは、あるいは第十八富士山丸とその乗組員に対し、北朝鮮当局により何らかの不利益が課されるおそれがありうるかも知れないという程度の危険にとどまることに加え、原告が主張する出港差し止めという措置は、他面において、対象者の自由を拘束するものであり、海上保安庁法一八条本文は、「四囲の状況から真にやむを得ない」ことをその権限行使の要件としており、また、警察官職務執行法四条一項は、警察官が「引き留め」などの即時強制手段をとりうるには、「危険な事態がある場合」で、「特に急を要する場合」との要件を要求していることを考慮すれば、仮に、法令上、門司海上保安部海上保安官及び門司水上警察署員において本件出港を差し止める権限があり、外務省職員及び入管門司港出張所職員において右機関に右措置をとるように要請する権限があったとしても、先に認定した事実関係の下では、右権限を行使しなかったことが、本件出港当時の具体的状況の下で、著しく不合理であったということはできず、右不作為に違法性は認められない。
四 争点3(救済義務違反の成否)について
公務員の不作為(権限不行使)が、国家賠償法上違法であるとして、その作為義務違反を主張する場合には、要求される行為(作為)の内容を特定して主張することが必要であるところ、原告が主張する作為義務は、北朝鮮と最大限交渉し、第十八富士山丸とその乗組員を救済すべき義務というものであって、外務省職員がいかなる救済措置をとれば、救済可能であったのかとの点については何ら触れることがないのであり、結局、その特定に欠けているといわざるを得ない。
よって、原告の右主張は、失当である。
第三 結論
以上の次第で、原告の本訴請求は、いずれも理由がなく、棄却を免れない。
(裁判長裁判官武田和博 裁判官重吉理美 裁判官西村欣也)